La  tarte  Al  Djote

 

 

2015年1月

 

ベット(bette)という野菜をご存知ですか?和名を“不断草”という、一見青梗菜に似ている野菜です。ワロニー地方のニヴェル(Nivelles)辺りでは昔から栽培され、土地の古い言葉でジョット(djote)と言われていました。この野菜とブレット(boulette)という郷土のチーズで作ったタルトが「タルト・アルジョット」で、ニヴェルの町に古くから伝わる郷土料理です。

 

 

 

 

ブリュッセルから南へ約30kmのところに位置するニヴェルは、西ローマ帝国を築いたシャルルマーニュ(カール大帝)の5世代前の大ピピンに縁があります。7世紀中ごろ、大ピピンの妻イッタはニヴェルに女子修道院を設立し、その娘のゲルトルートが修道院長となりました。裕福で信仰心厚い2人の女性の庇護の下、ニヴェルの町は栄えていきました。町のグランプラスにそびえ立つ聖ゲルトルート参事会教会は、もとは13世紀に建てられましたが、第2次世界大戦の爆撃で全壊したので、1948年昔と同じロマネスク様式の教会として再建されました。教会の塔の上で鐘を叩く金箔の像は15世紀に作られ、ジャン・ド・ニヴェル(Jean de Nivelles)と呼ばれ、地ビールの銘柄にもなっています。


【保存協会】

「タルト・アルジョット」は、古文書に1218年その名が登場するほど、古い料理です。そこで1980年、町の歴史や文化、伝統を保存しようという目的で、タルト・アルジョット保存協会ができました。以来、伝統的なタルト作りをする店が選ばれ、年に一度、星付の表彰状が贈られています。

 

今年も最高の5ツ星を獲得した店“Toute au Beurre”を訪ね、この道20数年というオーナー夫婦に、手際の良い流れ作業のタルト作りを披露してもらいました。まずは、卵を練り込んだ生地をタルト型に乗せて形を整えます。次に、細かく切ったベット、パセリ、玉ねぎ、ブレット・チーズを混ぜ合わせ、塩入バターと卵を加え混ぜます。タルトに流し込み表面を平らにし、オーブンで12分間焼きます。

 

店頭にはこの半調理タルトが並びます。買ってきたら180度のオーブンで更に12分焼き上げます。皿にのせたタルトに塩入バターをたっぷり乗せ、フォークをタルトの表面に突き刺して溶けるバターをしみこませます。野菜の味わいとチーズのモチモチ感がバターの塩味とマッチした、美味しくて栄養たっぷりのタルトです。熱々を一口食べたときは少し塩辛いと感じましたが、ニヴェルの地ビール“Jean de Nivelles”とよく合い、ビールがすすみます。

  

【ブレット・チーズ】

このタルトに欠かせないのが、ニヴェル特産のブレットというチーズです。トウモロコシの粒のようで黄色くポロポロとした感じの塩味のきいたチーズです。近郊の農家 “La Ferme de Vriese” で作られています。手作業で丸く握られたブレットは、おにぎりのような可愛らしい形をしています。

 

週に一度は必ずこのタルトを食べるという人がいるほど、町の人にはおらが町の料理です。が、好みも人それぞれで、ごひいきの店の話となると、アッチの店だ、いやコッチだと譲れないのがまた楽しいようです。

 

★当原稿は、2007年の冊子ボナペティ36号からの抜粋ですが、2014年の5ツ星を得たのもTout au Beurreさんでした。相変わらずの健闘ですね。

 

★ニヴェルの土曜の朝市 (Place Albert er, 1400-Nivelles) には、上記のタルト屋とチーズ農家が揃って店を出しています。

 

Boulangerie-pâtisserie 《Tout au Beurre》 

Rue de Namur 70 – 1400  Nivelles -  Tél : 067/21.27.70