アーティーチョーク(チョウセンアザミ)

2013年7月

 

 

 

 

 

王冠のような赤紫の花と、灰色がかった濃い緑色の葉をもつ野性のあざみ。初夏の荒野に美しく咲き誇ります。しかしその可憐な花に惹かれうっかり触ろうものなら、いたるところにある鋭いトゲで手ひどい傷を負うことになる。ロレーヌ公爵は、その凛々しい姿と鋭い防御力を好み、この花を家紋にしました。アーティチョークの祖先はこの棘だらけの野あざみなのです。

 

イタリア産の美食

 

アーティチョークは地中海沿岸産の野菜だが、古代ギリシャ・ローマ時代にはまだ存在していなかった野菜だ。彼らは野あざみに改良を加えたカルドンという野菜を好んで食べていた。カルドンとは、セロリのような形で、茎が柔らかい棘で覆われている野菜で今でもある。それを更に改良したのがアーティチョークだ。

ではいつ頃この世に誕生したのだろうか? 文献にその名が最初に現われたのが、イタリアのルネッサンス時代。1466年ナポリからフローレンスに幾つかの株が持ち込まれたとある。その後、イタリアの園芸家や植物学者たちの長い年月をかけた熱心な交配により、アーティチョークなるものが生まれた。そのため語源もイタリア語の“Articiocco”である。この新種の野菜はとても高価で、当時はブルジョワ階級しか賞味できなかった。

 

 

お姫様のお気に入り

 

アーティチョークがアルプスの山を越えてフランスに入ったのは、メディチ家のカトリーヌが、1533年、未来のフランス王ヘンリー2世に嫁ついで以来だ。この婚姻により野蛮なフランス宮廷が衣食住ともに優雅に変身するが、特筆すべきは料理で、彼女が実家から連れて来た大勢の料理人のおかげで、天と地の差ほど向上したのだった。現在のフランス料理は、全て彼女の実家の料理が基本といっても過言ではない。

このカトリーヌが大のアーティチョーク好き。これがなくては夜も日も明けないぐらいだった。しかし当時のイタリアでは、この野菜には催淫作用があると信じられていたので、その食べ過ぎは精神の錯乱をきたすと、宮廷の医師たちは彼女の過剰なまでの食べ方を諌めた。しかし14歳のカトリーヌ、聞く耳もたずであった。この王妃のために、フランス王家の菜園では栽培が奨励され、ルイ14世もこの野菜を好んだという。現在フランスでのアーティチョーク栽培は本家のイタリアを遥かにしのぐ量で、フランスの誇る輸出野菜の一つとなっている。カトリーヌ様々というところだろう。

 

 

アーティチョークって?

イタリアでも売り出した当初は、“能書き”を添えなければ誰もその食べ方は分らず、しかも野菜のどこの部分を食べているか想像できなかったという。

その正体は花の「つぼみ」だ。太い茎の上についているつぼみと、それを被っている葉が食用となる。より正確にいうと、葉と呼んでいる部分は、これから花になるつぼみをしっかり守っている、うろこ状の「包葉」だ。

 

 

買い方など

種類は大まかに分けて2種類。ブルターニュ地方が特産でブルターニュのカミュと呼ばれる緑色の丸くて大きいもの。ポワブラードまたはヴィオレットと呼ばれる、いわゆるプロヴァンサル・アーティチョークは、紫がかった葉で円錐形の細長い小型のもの。前者は調理して食べますが、後者は生でも調理しても食べられます。

買う時は、その大きさはあまり問題ではなく、手に持って重く、葉がしっかりと巻き、しかも葉がパキッと折れて樹液が流れるものなら最高に新鮮。買ってきたら冷蔵庫の野菜室で約5日間は保管可能。プロヴァンサルなら茎をコップの水に挿して冷蔵庫の中で。

 

 

どうやって食べるか?

 

この野菜の特徴は、葉を一枚ずつ剥がして食べることでしょう。葉の基のふっくらとした部分に歯をあててしごいて食べます。ところが、何十枚とはがした葉の後には、思いもかけずモコモコの毛が丘のように立ちふさがっています。だから大体の人はここでストップ。勇気ある人はこの繊毛を口にしますが、その硬い毛にギブアップです。でもモコモコを取り除くとつぼみを支える「台」が出現します。これこそがアーティチョークの醍醐味を味わえるところなのです。

 

 

カミュの調理法

 

日本ではまだあまり見かけない、何だかとても固そうな野菜がスーパーに並ぶと、誰もがその調理方で悩みます。

 

1.太い茎を除く。ナイフで切ると台の部分に硬い毛が残るので手でへし折る。プロは本体の先も切り落とし、上下にレモンの輪切りをつけてタコ糸で縛ってから茹でるが、家庭では丸ごとで充分。

2.アーティチョークがしっかりかぶる位の水を鍋に入れ、レモン汁を入れ20~30分中火で茹でる。茹でている間浮き上がってくるので皿などで重石をする。

3.根元の葉を一枚引っ張ってみて、スッと抜ければ茹で上がった証拠。

4.茹で上がったら、ザルにあげ水分を切る。

5.葉を一枚ずつはがし、根元の柔らかい部分に歯を当てこそぐようにして食べる。繊毛を除き、台も食べる。あればフレンチドレッシングをソースとして浸しながら食べるが、何もつけなくても十分に美味しい。茹でたての温かいものでも冷めたいものでも好みでどうぞ。

 

 

優れた効用

 

アーティチョークはニンニクと並ぶ治療薬草の双璧です。肝臓に良く、解毒作用に優れ、黄疸や肝硬変の治療に用いられます。また葉を煎じたものはコレステロールの低下を促進。ミネラルも豊富で、特にカルシウム、マグネシウム、鉄などバランスよく含まれています。ビタミン類も傑出していて、特にビタミンCとビタミンB1は、共に必要摂取量の10%という驚く量。その上、豊富な繊維は整腸を助けるというオマケ付きの願ってもない優良アルカリ食品なのです。肉体の酸性化を防ぐので、肉食過多の現代人には願ってもない野菜だといえます。