ステファン・ルルー Stéphane Leroux

2013年11月

 

 

フランス人パティシエ、ステファン・ルルー氏は、メディアにはあまり登場しないので、一般の人には馴染みがない名前だと思うが、プロのパティシエやショコラティエで、M.O.F(フランス国家最優秀職人)である彼の名前を知らないものは恐らくいないはずだ。その名が世間に知れ渡ったのが、2004年、アメリカで行われたワールド・ペストリー・チーム・チャンピオンシップ(WPTC)の時だろう。これは菓子のワールドカップともいうべきコンクールで、各国三人一組からなり製菓技術を競うものだ。わずかの差でベルギーは総合で2位になるが、ルルー氏の群を抜いた圧倒的なピエス・モンテ3点が芸術賞一位を取った。


職人の家系

父親は鋳造のM.O.F.、両親の親戚の多くも職人として働いている環境からか、または職人の血が流れているせいか、ステファンも子供のころから物作りが得意だった。特に甘いものに目がない彼は、“大きくなったらおまえはきっと菓子屋になるよ”とお祖母さんが笑ったほど、お祖母さんの菓子作りの手伝いが好きな子供だったそうだ。

中学卒業後の進路をパティシエと決め、学校に通いながら近くのパン屋で見習いとしてスタートした。学べば学ぶほど好きになるこの仕事が楽しくて、18才の時からフランス各地やベルギーのパティスリーでの修業の旅に出た。こうして出会った多くの職人たちから、技術だけではなく職人としての意識や意義も学んだ。だから今でも自らを職人と誇り、彼らなくしては今の自分はないと深い感謝を捧げている。

 

チョコレートの神様

パティスリーはもちろんだが、チョコレートを扱わせたらM.O.F.のなかでもその右に出るものはないといわれるルルー氏。天性としかいえないひらめきと魔法の指が創り出す芸術品は、世界中のパティシエの注目の的である。ある日本人のパティシエにいわせると「チョコレートの神様」だそうだ。そのルルー氏が、二つ星レストランのシェフ達にアントルメの講習会をすると聞き、お手並みを拝見しに行った。


当日はアントルメ2品とハーブで香り付けしたプラリーヌ製作のデモンストレーションと、それらを作るヒントやテクニックが披露された。いとも簡単そうに見える作業だが、熟練したもののみができる的確な技に、参加したプロも感嘆の声をあげていた。一点の曇りもない鏡の様なグラサージュ、切り分けた断面の完璧さ。さすがとしかいいようがない。

今回はその時に見せてもらった、ルルー氏考案の飾り用チョコレートの作り方をビデオでご紹介しよう。キッチンペーパーとラップを使い、チョコレートの表面にヒダ模様をつけるテクニックだ。プロの方は大いに参考になるだろう。


 

 

現在ルルー氏は、パティシエ・ショコラティエという素晴らしい職業が永続するよう、そのノウハウの伝承に力を傾けている。ベルギーのチョコレート会社ベルコラーダ技術アドバイザーや、フランス・イサンジョーの国立高等製菓学校、パリのステファン・グラシエ、シカゴのフレンチ・ペストリー・スクール等の講師を務めている。今年の6月、二冊目となる著書「プラリネ Praliné」を4ヶ国語(フランス語、英語、オランダ語、日本語)で上梓した。www.racine.be