Jean-Philippe Darcis

 

2012年8月

チョコレート王国ベルギーで2001年“チョコレート大使”の任命を受けたパティシエのジョン・フィリップ=ダルシ氏。数々のコンクールで受賞を重ね、Coupe de monde de la pâtisserie(世界洋菓子コンクール)にも出場する実力者です。2004年はルレ・デセール*の会員になりました。 * ルレ・デセール:フランスに拠点をもつ高品質な菓子店の協会。相互の技術向上を高め合うための活動を行っている。

 

 

 ダルシ氏はリエージュの街に近いエルブ高原の出身。ものを創る職業につきたいと選んだのが菓子職人でした。ヴェルヴィエのメインストリートにある店は、歩道からガラス越しに色とりどりのケーキが並らぶのが見え、歩行者の視線を惹きつけます。ここには、パリや東京で見かけるような上品なケーキの他に、昔ながらのベルギーのケーキ(ジャバネ、ミゼラブル、メルヴェイユなど)やワロニー地方の郷土菓子(ガトーヴェルヴィエ、タルトオリ、ベゼドマルメディなど)もあります。店内はパン、ケーキ、プラリーヌが並ぶブティックと、広々としたティールーム。途切れることがない買い物客の行列で活気付き、地方都市の菓子屋とは思えないほど華やかで洗練された雰囲気です。  

 

 著名なパティシエからも地元の客からも評判の菓子を創るダルシ氏のこだわりは、“素材の安定性”と“原料の質”。「今日のエクレアは昨日のよりも美味しくない、ということはあってはならない。そのためには素材一つ一つを常にいい状態に保ち続けることが不可欠だ」という言葉に、彼の職人気質が伺えます。例えば、チョコレートの温度調整(テンパリング)。フランスの菓子職人の中には、経験と勘による手仕事のテンパリングを、機械に任せるのは「職人」の技ではないという人もいます。でも彼にとって、少量ならまだしも、勘に頼り製品にムラがでることの方が問題なのです。  

 

 彼は職人でもあり優秀な経営者でもあります。ティールームで客がホットチョコレートを残せば、原因を考え、客の求めるものを模索したり、保守的な地元の人に拒否されないよう、奇異な食材の組み合わせには気を遣います。生姜のコンフィを詰めたプレリーヌを例にとると、日本人にはもう少しインパクトが欲しいところですが、生姜の味に慣れないベルギー人の間では、主張が強すぎると評判が五分五分になってしまうそうなのです。毎日買いに来る客の顔を思い浮かべて作るからこそ、地元で一番と評判をとるのでしょう。ベルギーの典型的なプラリーヌであるマノンは、濃厚な生クリームとプラリネを白いチョコレートでコーティングしたものです。高品質のミルクやバターで知られるアルデンヌ地方のエルブ高原。そこから毎日届く濃厚な生クリームが詰まった彼の作るマノン。虜になる客が多く、これはワロン地方の食品見本市で、コックドクリスタル(最優秀賞)を受賞したほどの秀品です。    

 

 ダルシ氏の、概念に囚われない自由な発想、工程に手間隙をかけても顧客に美味しい物を食べて貰いたいという熱意、安定した品質への怠り無い工夫、といった一貫した信念から作られるパティスリー。多くの先輩パティシエが大きな期待をかけるのも当然のことでしょう。

数あるプラリーヌの中でも特に美味しいのは、 様々に香り付けされたガナッシュをブラック チョコレートでコーティングしたもの。 絶対日本人の口に合います。

ダルシ氏が自分の作る郷土菓子の中で、一番好きなのがメルヴェイユ(merveille)。子供の頃に食べた味に近づけて作っているそうです。生クリームの濃厚な味とさくさくのマカロン、キャラメルソース、チョコレートのバランスのよさは必食。


Jean-Philippe Darcis

121,Crapaurue 4800 Verviers

Tel :087-339815 

 http://darcis.com