オーストリア菓子をめぐる旅

 

 

 2013年8月

 

ヨーロッパの国々を旅行すると様々なお菓子やパンにめぐりあいます。でも元をたどるといつも行き着くところはオーストリアのハプスブルグ家。今回のヴァカンスはオーストリアへ西洋菓子の元祖を探す旅に出発しようと決めました。

 

 

ハプスブルグ家の食卓

 

訪れたシェーンブルン宮殿で、まずハプスブルグ家の歴史を勉強。オーディオガイドから聞こえてくるハプスブルグ家の人々と食べ物に関する話は愉快でした。フランツヨーゼフの時代には家族の普段の食卓では、20品近くのオーストリア料理が40分という短時間で食されていたことや宮廷晩餐会はフランス料理でもてなしていたなどのエピソード。歴史の苦手な私も思わず引き込まれるものでした。宮廷で使用されていた陶器はアウガルテン、フランツヨーゼフ一世の好物はボイルドビーフ、エリザベートの好物はスミレの砂糖漬け・・・・こんな授業だったら、歴史の勉強をもっと真剣にしていたことでしょう。

 

市内でさっそくパン屋、菓子屋、カフェを探索しました。

クロワッサンの元祖キプフェルは、陥落寸前のウィーンからオスマントルコ軍が撤退したのをオーストリアが祝い、トルコ軍旗の三日月を形どりパンを作ったそうで、パン屋には三日月形のパンが何種類もあります。我々が考えるクロワッサンには「パリ・クロワッサン」と表示されていました。

かの有名なホテルザッハーでザッハートルテ(ウィーン風チョコレートケーキ)を食べることが旅の目的の一つだったのに、なんとホテルザッハーが改装中で休み(現在は営業しています)。仕方なく、正統派のザッハートルテをめぐって裁判沙汰にもなったもう一軒のカフェ、デメルへ行きました(結局この裁判ではどちらの店もザッハートルテと名乗っていいことになり、今ではどこの店でもその名で売られています)。

ウィーンはカフェ発祥の地なので、一杯のコーヒーと美味しいケーキでゆっくりとした時間を過ごそうと思い入ったのですが、席に座るや否やマダムが注文を取りに来て、あっという間にケーキとコーヒーが到着。しまいには、私がまだ食べているのに、先に食べ終えた夫のお皿をとっとと下げていく始末でした。呆れてしまいましたが、これは後に入ったカフェやレストランの全てに共通していました。

ゆっくりコーヒーも飲んでいられないせわしなさの中で食べたザッハートルテは、原宿のデメルで食べた時のほうがずっと美味しくて優雅だったのでちょっとがっかり。店内のケーキのショーウィンドーを観察すると何十種類ものケーキが並んでいます。日本でよく見かけるフワフワのスポンジとクリームが段々に重ねられたものが多いようです。焼き菓子はバター、砂糖、ナッツのプードルを贅沢に使ったずっしり系でたくさんの種類が並んでいました。

 

ザルツブルグ

 

次の目的地は映画「サウンドオブミュージック」の舞台となったザルツブルグ。その前に、オープニング舞台となったザルツカンマーグート(塩の領地)地方へ寄り道です。この地方は有名な塩の産地で、紀元前一千年頃からバルト海沿岸や地中海沿岸の各地に運ばれていました。現在でも岩塩採掘が続けられているハルシュタットは、ケルト文明の地としての歴史的価値と美しい湖と山の景観で世界遺産に登録されています。

やっとたどり着いたザルツブルグで、映画音楽の一曲、“私のお気に入り” ♪アップルストゥルーデル、プレッツェルなどは私のお気に入りの一つ♪を口ずさみながら、ケーキ屋、パン屋の探索を始めると、なんと早々にホテルザッハーに行き当たりました。

ウィーンでなくザルツブルグでホテルザッハーのザッハートルテにめぐりあったのです。大量のホイップクリームが添えられて運ばれてきたザッハートルテは、デメルよりもほんの少しアプリコットジャムの味がきいていました。ベルギーチョコで舌が肥えたせいか、コーティングされたチョコレートは今ひとつでしたが、旅の目的の一つが達成されたことに大満足。

また、この街はモーツァルトの出身地だけあり、モーツァルトの顔が描かれた丸いチョコレート菓子・モーツァルトクーゲル、クロワッサン生地にマシパンを折り込んで焼き粉砂糖をまぶしたクロワッサンモーツァルト、モーツァルトトルテと呼ばれるモカケーキなど、全てモーツァルト一色でした。

 

オーストリアで見つけたお菓子やパンは見た目も味も素朴なものが多く、ヨーロッパを旅すると見かけるような見知らぬ地方菓子とは異なり、我々日本人にはなじみ深いものでした。グルメなハプスブルグ家の一族がヨーロッパ諸国から持ち込んだり、持ち出したりしたおかげで、様々な菓子やパンが創作され、世界中へ広められたことを実感し、この一族がどれだけ食に対して情熱を持っていたのかが伝わってきました。とびきり美味しいものにはありつけなかったけれど、オーストリア菓子を通して西洋菓子の元祖を垣間見ることができたヴァカンスとなりました。