シリア    La Syrie

2015年6月

 

 

往時のアレッポ城入り口
往時のアレッポ城入り口

きな臭い話ばかりが聞こえてくるようになってしまったシリア。今やシリアに行くというと戦闘に参加するのかと疑われ、旅券を取り上げられかねない状況です。現状ではとても旅行に行くこともかなわない国ですが、実はメソポタミア文明に属する素晴らしい遺跡が多々ある国です。

そんな素晴らしい遺跡も、戦闘による被害のみならず、きちんと維持管理できないことから盗掘や損傷が進んでいるという痛ましい話が世界中のメディアに報道されています。



アレッポ旧市街
アレッポ旧市街

もう十年以上前になりますが、ブリュッセルの自宅の近くにあった旅行会社を通りかかった時に、「シリア往復航空券○○ユーロポッキリ!」というような広告に目がとまりました。ビーチや他の都市など様々な張り紙があったのに、「そんなに安くて、中東に行けるの?!」と思ったらもうそれしか目に入らず、思わず代理店のドアを開けていました。当時、友人がアレッポに滞在していたこともあり、ダマスカス、アレッポ、パルミラ遺跡を巡る旅を計画。ブリュッセルからダマスカスに飛び、シリア国内はバスで移動しました。

見どころの一つ記念門と列柱道路の看板
見どころの一つ記念門と列柱道路の看板

 当時からあまりメジャーな観光地ではなく、「え?シリア?シチリアじゃなくて?」という周囲の反応はありましたが、今のように渡航勧告など出ていなかった時代のこと。地元の人たちにまじり、千円もしないバスに数時間乗って旅行するのは、ドキドキハラハラしつつものんびりと楽しいものでした。

アレッポからパルミラ遺跡に行くのに途中の街でバスを乗り換えることは知っていたけれど、数時間も待つはめになりました。アラビア語表記しかないターミナルでやっとそれがわかった時は、「こんな何もないところで・・・」と力が抜けたものです。暇つぶしにスケッチしていたら人が集まってきてしまい、中でもひときわ体格のいいレスラーみたいなおじさんが「オレを描いてくれ」と言っている様子。アラビア語で上手に断るなんてできないし、なぐられたらこわいし・・・でも絵が下手でもなぐられるかも・・・と冷や汗をかきつつなんとか描きあげたら、おじさんは喜んでくれて「お、これからパルミラに行くのか?バスが来たぞ!」とスーツケースを軽々と持ってバスまで走ってくれました。シリアのニュースをテレビで見るたびに「あのおじさんは元気だろうか」と気にかかります。


パルミラ遺跡
パルミラ遺跡

パルミラ遺跡はそれまでに見たヨルダンやイスラエルの遺跡に比べ、管理が行き届いていない印象でした。当時から外国からの観光客にはアクセスしにくいこともあり、英語表記も少なく、どこに何があるのかよくわかりませんでした。ただ、手が加えられていないゆえに遺跡は栄えた往時をまざまざと思い起こさせてくれるものであり、頼りないパンフレット片手に自分でどこに何があるのか探していく楽しみがあるものでした。写真のような道路標識かと思うようなアラビア語と英語の看板をたよりにメインの建造物はさがしていけますが、その辺に無造作に転がっている石造などはガイドが説明しているグループに近寄って行って耳をそばだてたりして初めて何かわかるといった具合です。

 

ところでシリアの人たちはふだん何を食べているのか?朝ごはんはパンとなぜかアプリコットジャム。いちごでもブルーベリーでもなく、アプリコットなのだそうです。そしてオリーブやゆで卵。アラブのストリートフード、ホブズというフラット・ブレッドとファラフェルというひよこ豆をすりつぶして揚げたものはシリアでもよくみかけました。パルミラで食べたのは「マンサフ」という羊肉をヨーグルトで煮てごはんの上に揚げたナッツなどとともにのせた料理。これはもともと遊牧民族ベドウィンの食べ物で、シリアだけでなくヨルダンなどでも食べられています。今となってはどこからこの食べ物の存在を自分が知ったのかも定かではないのですが、これが食べたくて「マンサフ!マンサフ!」と食堂のおじさんに言ったおぼえがあります。アラブやトルコの料理では、ヨーグルトがよく調味料のように使われていて、この料理もそのせいか見た目よりもあっさりした味わいだった記憶があります。ダマスカスで入ったパリパリにローストしたおいしいチキンを出す食堂は、女性客は私だけで、店内で食べているのはおじさんばかりで居心地が悪かったものです。女性だからととがめられはしませんでしたが、イスラムの女性は夫や身内以外の男性がいるところでむやみに食事をしないものなのでしょう。たまにくる女性客はテイクアウトばかりでした。

ダマスカスで地元の人に人気のローストチキン専門店にて。ピクルスの横にあるマヨネーズのように見えるのはニンニクがきいた絶品のソース
ダマスカスで地元の人に人気のローストチキン専門店にて。ピクルスの横にあるマヨネーズのように見えるのはニンニクがきいた絶品のソース
パルミラ遺跡近くの食堂で食べたマンサフ。ごはんに羊肉、揚ピーナッツ、オリーブなどがトッピング
パルミラ遺跡近くの食堂で食べたマンサフ。ごはんに羊肉、揚ピーナッツ、オリーブなどがトッピング

今では考えられないことですが、パルミラでは英語を話すグループや学生のツアーグループもちらほらと見かけ、一人旅の日本人女性にも出会いました。

また観光客で遺跡がにぎわう日がくるのだろうかと今は遺跡そのものの存在が危ぶまれる状況ですが、再訪できる日が来ることを願ってやみません。