レストラン ヘルトッグ・ヤンHertog Jan

2016年10月

ブルージュの三ツ星シェフと東京の一ツ星シェフのコラボ・ディナー

9月30日、ブルージュの三ツ星レストラン「ヘルトッグ・ヤン」で、ヒェート・ドマンジュレールシェフと東京の一ツ星レストラン「フロリレージュ」の川手寛康シェフとのコラボレーションによるディナーが開催された。

 

ヘルトッグ・ヤンHertog Jan

左からお店、店内、外観。クリックすると拡大されます。

ベルギーで最も人気があるレストランの一つが「ヘルトッグ・ヤン」だ。シェフのヒェート・ドマンジュレール(39歳)とメートル・ドテル兼シェフ・ソムリエのヨアキム・ブーデンス(36歳)が11年前にオープン、ミシュラン3ツ星への階段を一気に駆け登った今や伝説の店である。ベルギー美食ここにありと世界に知らしめた店は、5大陸のトップレストランのシェフ達の集まり「グランド・ターブル・デュ・モンド(Les Grande Table du Monde)」のメンバーでもある。簡単にその賞歴を紹介してみよう。

ヒェートGert De Mangeleer:
2006年 「ベルギー美食の有望な星」賞。まだ世間に知れていない才能を発掘し、ベルギーグルメの質を高めるため設けられた賞で、対象はミシュランの星を取っていない35歳までのシェフ。これを27歳で獲得。ミシュランもこの賞と争うように8ヶ月後の2007年版で1つ星をつけた。
2010年 ミシュラン2ツ星
2012年 ミシュラン3ツ星
2014年 マドリッド・フュージョンで「最優秀ヨーロピアン・シェフ2014年」
2015年 「世界のベスト50レストラン」50位
2016年 同上ベスト73位
2015年 ゴー&ミヨ 18,5

ヒェートシェフ
ヒェートシェフ

ヨアキムJoachim Boudens:
2002年 当時はワインバーだった「ヘルトッグ・ヤン」に勤務中、「カリフォルニアワインと美食」コンクールで優勝。
2005年 最年少の24歳で「ベルギー最優秀ソムリエ」となる。
2011年「優秀ソムリエ2011年」など、以後十指にあまる賞を獲得。

シェフソムリエ ヨアキム
シェフソムリエ ヨアキム

新装なったレストラン
ブルージュはブリュッセルと並ぶベルギーが誇る観光地だ。ミケランジェロ作の聖母子像があるノートルダム寺院や運河沿いの赤レンガの家々と苔むした石橋、当時の人にふっと出会いそうな蔦の絡んだ小路など、人々を15世紀にタイムスリップさせる古都である。
ヘルトッグ・ヤンは、このブルージュの中心から南方へ車で15分ほど行った畑の真ん中にある。1834年築の農家の納屋を改装した店は広く、そのキッチンはまるで工場の様に大きい。昔のジャガイモの納屋が今はワインのカーブに変身している。シンプルで落ち着いた店内からは2ヘクタールある菜園や果樹園が見渡せ、望めば散策もできる。

ハウスでは75種類以上のトマトが栽培され、このトマトを使ったのが人気の「トマトのコレクションcollection des tomates 」。味も食感も違うトマトと野菜にフレッシュチーズを合わせ、柑橘類やカルダモンなどの香辛料、フレッシュハーブと花であしらった一皿である。適度な酸味と甘さのバランスがよく、各々の野菜のもつ風味が一口ごとに広がり、香りが交差する。『たかがトマト、されどトマト』を実感する、自然がはじける逸品である。これは21世紀のフランス料理界を代表する料理人の一人、ミッシェル・ブラスの有名な「ガルグイユ」からヒントを得たという。その他、料理には菜園で採れたカブ、ニンジン、ビート、カリフラワー、フェンネル、アーティチョークなど四季折々の野菜が主役をはる。シェフの哲学は「自然へのオマージュ」。海と大地の恵みに感謝しそれを皿の上に表現し季節を味わう。だから素材の味を尊重しその豊かさを賞味する和食に自らの哲学との類似点を見つけ共感するという。

無尽の創作力に溢れヒェートだが、20年来の良き相棒、完璧主義者のヨアキムなくしては今の3ツ星はあり得なかっただろう。客をアットホームな気分にさせる笑顔と、気品ある立ち振る舞い。選んだ料理に最適なワインを勧める豊かな知識。その充実した品ぞろえのワインカーブには定評がある。ヒェートがその料理で郷土の食材への尊敬を表すなら、ソムリエはその料理を引き立て、輪郭をつけなければならないと、絶えず料理との完璧なマリア―ジュを追及してやまない。お互いを尊敬し、強い信頼感で結ばれた若い才能。さらなる発展が楽しみだ。

 

コラボ・ディナー
浅学なことにフロリレージュFlorilègeの評判を知らなかったので、日本の料理雑誌編集長に問い合わせたところ「才能といい人柄といいすばらしく、常にポジティブで非の打ち所がない」との返事だった。そんな川手寛康シェフ(38歳)に今回のコラボの理由を聞いた。「ヒェートが2回当店に食べに来てくれて、コラボレーションの提案がありました。彼の評判は知っていましたし、ベルギーは未知だったので願ってもない機会だと思いました。次回は11月末に東京の当店で行います」。

川手シェフ
川手シェフ
うなぎの天ぷら
うなぎの天ぷら

川手シェフの今回のテーマは『ブルージュと東京』。ブルージュ滞在中は、他の店に行ったり食材を見たりしながら、ベルギー人に出す料理のヒントを探した。そして家庭料理で有名な「ウナギの緑ソース」に興味を持った。この料理はぶつ切りにしたウナギをエシャロット、白ワイン、フォンで煮て、そこにパセリ、スイバ(スカンポ)、セージ、エストラゴン等のハーブを入れて煮たもので、かば焼きの濃い味に慣れた日本人には好き嫌いがはっきり分かれる料理だ。それが川手シェフの手にかかると、骨ごとのウナギのてんぷらになった。ビールで煮含めたカブを付け合わせ、緑のハーブを散らし、食前にウナギとビールで作っただしをかけ回してサービスした。ウナギの泥臭さをカバーする濃い緑のソースに慣れたベルギー人の反応いかに? カリッと揚がったウナギとふんわり煮たカブ、さわやかで滋味豊かなだし。そして「ウナギの緑ソース」のアイテムを再構成したその創作力と、全てがかもしだすバランスの絶妙さに喝さいの声が上がった。

 

両シェフに共通していることは、しっかりした基本をもとに、自分の哲学に則って、何を伝えたいかを明確に打ち出した料理を作る点だ。食べてくれる人を喜ばせたい、五感にひびき、驚きと感嘆を与えたいと日夜アイディアを練る。
「川手さんの料理は日本の食材をつかった創作的なヨーロピアン料理。彼のデリカシーが伝わる料理。私の料理はベルギーの食材を使った日本料理の影響があるモダンフレンチ」。「一つ一つを非常に丁寧に作る料理は、まるで菜園を散歩しているような、彼の哲学が強く伝わってくる料理」と語る。既成にとらわれない縦横無尽の創作力を持つ二人、今後も驚きに満ちた、感性のきらめく美食の世界へと誘ってくれるだろう。

Hertog Jan
Loppemsestraat 52, 8210 Zedelgem
www.hertog-jan.com

Florilègeフロリレージュ
東京都渋谷区神宮前2-5-4 SEIZAN外苑
B1 SEIZAN Gaien, 2-5-4, Jingumae, Shibuya ward, Tokyo Japan
www.aoyama-florilege.jp