リヨンのプリンス

2013年9月

 

 

この夏、ジュネーブに近いフランス・アヌシーに、フランス国家最優秀職人(M.O.F.)と今年のクープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリー(洋菓子の世界コンクール)の優勝者を取材に行ってきました。その帰り、美食の街リヨンにも立ち寄りました。ローヌ川とソーヌ川の大河が交わる街は活気に溢れ、文化(衣食住)が発展したのも肯けるすてきな街です。ここを訪れた理由は、フランスが世界に誇る料理人ポール・ボキューズ(Paul Bocuse)のお孫さんに会うためでした。フィリップ・ベルナション(Philippe Bernachon)さんは、リヨンの老舗パティスリー・ショコラトリー「ベルナション」の3代目です。





優秀なパティシエだった初代ベルナションは進取の精神の持ち主で、自分の味のチョコレートを作ることを思い立った。独自でカカオ豆を輸入、焙煎から製造までの全工程を自店で行うことを始めた。現在でもほとんどのショコラティエやパティシエが、工場製のクーベルチュールを使うことを考えると、大胆な発想だったといえます。

フィリップさんをひとめ見て、ボキューズさんにそっくりなのにびっくり。ボキューズ氏は母方のお祖父さんだけど、それにしてもよく似ている。特にその大きな目や雰囲気が。実は私ずいぶん前に、ブリュッセルからボキューズ氏のレストランめがけて行ったことがあります。ベルサイユで一泊して、車でひたすら走りましたねぇ。今の様に高速も発達していなく、ましてやTGVなんてなかった時です。ところが、生まれて初めて3っ星で食べる興奮と旅の疲れで、パイ皮をかぶせた有名なトリュフのスープでもう満腹。メインもチーズもデザートも、今でも思い出すと悔しいぐらい、チョコっと箸をつけたぐらい。まさかドギーバックをお願い、なんていくら私でもいえません。その後ボキューズ氏が登場し、お話ししたのですが、その時のボキューズ氏がフィリップさんと重なりました。

チョコレートやパティスリーの製造工程を見学したあと、当店の最初の定番となったチョコレートボンボン、ル・パレ・ドール(le palet d’or)やケーキを頂きながら、3年前にお亡くなりになったお父さまの後継者としての抱負を尋ねました。「先代たちが残してくれた偉大な商品の質を落とすことなく、継続していくつもりです。ケーキの甘さやアルコールの量を減らすなど、もちろん時代のニーズを受け入れながらですが」。新しいことに挑戦し、さらに手広く商売する気はないとのこと。これが老舗、伝統という重みかしら?「ベルナション」はリヨンっ子が誇る店なのだから。そうよね、雷おこしが雷おこしでなくなったら、困るもの。

 

Bernachon chocolatier

www.bernachon.com