南フランス駆け足旅行

 

2014年5月

 

 

かねてよりの我々夫婦の願いは、南仏とブルゴーニュを車で旅行することでした。ベルギーから南仏まで運転していくほどの若さもないので、ブリュッセルからニースまで飛行機で行き、空港で予約しておいたレンタカーに乗り、南仏→エクサンプロバンス→アヴィニヨン→ボーヌ→ディジョンと宿泊しながらドライブ。ディジョンで車を乗り捨て、最後はTGVで帰るという、短い時間で効率的に回るルートを練り、昨夏強行しました。

 

 

1日目

ニースの空港からは、駐車スペースもないほど混雑する町を走り抜け、陶器の町として有名なヴォロリス(Vallauris)へ。ここには、ピカソが陶芸に取り組んだ工房や国立「ピカソ戦争と平和美術」があります。その古い小さな礼拝堂には彼が平和への思いを込めて描いた壁画があり、聖堂いっぱいの壁画は「ゲルニカ」より優しい祈りを感じずにはいられませんでした。

 最初の宿泊はバカンスの喧騒を避けた山側の魅力的なホテル“Hotel du Clos”1つ星レストラン”Le Clos saint Pierre”とビストロ”Le bistro du Clos”が同じ経営者です。目立つのは教会だけ、という本当に小さな村です。レストランには日本人シェフがいます。フランス国内のミシュランの星つきレストランを修業して、気に入ったこのレストランで10年以上も働いています。日本人の客は年に一組くらいという田舎で、フランス人の舌に挑戦し続ける意志に頭が下がります。

魚の天ぷらと野菜をマリネした爽やかな前菜(Retour de Peche local on Beignet,salad Mediterraneene une vinaigrete a l’ail doux)、地産の白い豆(coco)の甘さを生かしたパスタ(フンギ)のバジル和えなど、派手さはないけれど、確かなおいしさです。お勧めのブルゴーニュの赤ワインGibriにも大満足。この素敵な料理を日本人が支えているのだと嬉しくなった夜でした。もちろんこの夜も満席。朝食はテラスで地元のヨーグルトと自家製ジャム。もう1泊したかった宿で、フランスの田舎はやはり素敵!と快調な旅の始まりでした。

 

 

2日目

まずピカソが晩年を過ごし、写真美術館もあるムージャン(Mougins)へ。コクトーはじめ多くの人を魅了した街は、カタツムリのように小さな家がとぐろをまいて建ち、高台からは海まで見渡せて、立ち去り難い魅力的な場所でした。 カンヌもニースと同様、映画祭の時にレッドカーペットがひかれる所を見ただけで通過。バカンス真最中のせいで、どこも江の島のように人がいて、街に入るのにも1キロ進むのに15分という渋滞ぶりでした。

 午後は高速道路でエクス・アン・プロヴァンス(Aix –en Provence)へ。セザンヌのアトリエを見たり、きれいな噴水のプラタナスの並木の街を散歩したりしました。フランスでも屈指の人気の町というのが分かる素敵な街です。地元名物のカリスというメロンシロップを固めて作った菓子を老舗で買いましたが、かなりの甘さに閉口しました。

 

 

3日目

 

まずリル・シュル・ラ・ソルグ(L’Isle-sur-la-Sorgue=ソルグ川の島)という町へ行きました。ミシュランのガイドで高い点数がついているわけではないのですが、何となくその名前に魅かれて行った街でした。が、これが大正解。まるでプロヴァンスのブリュージュです。透き通った水と今でも動いている水車。おしゃれなお店もあり散歩には最高の街でした。日曜日にはアンティック市がたち、魅力が更に増すそうです。


 

 

夕食はトマト料理で有名な一つ星クリスチアン・エチエンヌ“Christian Etienne”。テラスをテントで覆った部屋にはトマトの鉢もテーブルのそばにあり、まるで温室の中で食べている気分です。注文したのは“Menu Tomates”70。グラスに入ったガスパチョに始まり、トマトの名前も”Roma”や、”Couer de bouf”と珍しいものばかり。飾りつけもおしゃれで、山椒が使われていたりと、楽しい驚きの料理のオンパレード。なかでも気に入りは緑と赤の生のトマトのバジリコ風味の前菜、”Tartare de tomates’Ananas et Green zebra’au basilica,salade d’ete,crispy tomate“。シマウマという名前のトマトは疲れを吹き飛ばすおいしさでした。


 

午後は歴史の町アヴィニヨン(Avignon)に。日本人の団体客やフランス人の家族など観光客でいっぱいで、駐車場探しも一苦労。道も狭く、気温・湿度も高く、この旅ではじめて夏らしい疲れを感じました。歌で有名なアヴィニヨンの橋「サンベネゼ橋」へは行ったものの、教皇庁に入場する長蛇の列。あきらめてホテルへ帰りました。

 

 

4日目

翌朝は、昨日見損なった教皇庁を開館前から並び見学。広い教皇庁の中は贅を凝らした作りで見ごたえ十分。見下ろすアヴィニヨンの街の素晴らしい風景。さすが世界遺産です。

 

その後はリヨンを経由してブルゴーニュ地方へ。今回の旅の目的の一つでもあるロマネスクの寺院回りを始めました。まずは、こんなところに本当にあるのかなと思うほどの田舎にある、素朴なオズネーOzenay村の教会。堂内のアーチと高い塔が美しいシャペーズChapeize のサン・マルタン教会。そして、村の住人が4人しかいなくなるほど過疎化が進んだと言われた丘の上の小さな村ブランシオンBrancionのサン・ピエールSaint- Pierre 教会。


教会の裏から見るブルゴーニュ平野は輝く緑とワイン畑が続き、天気の良さも相まって、何時間でも眺めていたくなる景色です。今までゴシックの教会ばかり見てきたので、これらロマネスク教会は飾り気のない分、真摯な祈りを感じ、また、日本にはない石の文化の良さを認識しました。

 この夜の泊まりはワインの街ボーヌBeaune、古い商家を宿にしたホテルに2泊しました。運転疲れもあるので、この日は和食を食べて、胃も休養させることにしました。

 

 

 5日目

 

 


世界で一番付古い病院と言われるボーヌ施療院(
Hotel- Dieu)へ。ブルゴーニュ地方独特の幾何学模様のきれいなスレートの屋根に目を奪われ、裕福な役人夫妻が貧しい人のために15世紀に作った建物の豪華さに感心しました。


ここへ来たもう一つの目的は、有名なワイン”Hospices de Beaune”.を買うことです。ワイン係りの人と相談しながら、慎重にプルミエール・クリュ(1er Cru) を選びました。

 城壁に囲まれた街を見てから、オータンAutunのサン・ラザール教会を訪ねました。12世紀前半のロマネスク時代建立のタンパン(玄関の扉の上にある半円形の部分)の彫刻が素晴らしいのです。夕方から、ワイン畑の中を4輪駆動の車で走るサファリツアーに出かけました。ボーヌの周囲、特にディジョンまでの道はワイン街道と呼ばれ、名だたるワイン畑が並びます。遠くに見ただけでは判別できない細い道を、ドライバー兼ガイドのマダムは熟練の運転技術を駆使し英語・フランス語による説明付きで回り、写真好きの日本人のためにロマネ・コンティや”Hospices de Beaune”の前では停車してくれるサービスぶりです。大きなワイン醸造所でワイン製造の工程も説明され、試飲もしました。

 夕食は開店したばかりというビストロ”21 Boulevard”に行きました。ブルゴーニュ風エスカルゴや牛肉の赤ワイン煮の定番料理の他に、前菜には天ぷらがあり大きな花つきのクルジェットをそのまま揚げていました。今回の旅行でフレンチに和食のテイストがかなり取り入れられていることに驚きました。10数年前、娘の現地の幼稚園のお弁当の海苔が変だといじめられたものですが、今はスーパーで海苔巻を売っているので、当然なのかもしれませんが。

 

 

6日目


 最後の訪問地ディジョンへ向かう前に、ボーヌから北へ車で10分ほどのPernand-VergelessesDomaine Pavelotへ予約をして訪ねました。有機栽培で葡萄を作っている醸造家です。見過ごしそうな小さなベルを鳴らすと穏やかなマダムが出迎えてくれ、見渡す畑を見ながら、どれが1er Cruを栽培する畑かなどの説明を受けてから、19世紀の母屋の階下にあるカーブで試飲しました。試飲する前にマダムが「これは森を歩いた時の深い緑を感じる香り」などと、1本づつ愛情込めて説明してくれ、まるで漫画の「神の雫」のように全部買いたくなってしまいました。小さな村の小さな赤い木の扉の向こうに、こんな深い世界があるのだなと感慨深いものがありました。

 ディジョンはブルゴーニュ公国の都だったので、街にも華やかさが漂い、おしゃれな店が並ぶ魅力的な街です。マスタードで、有名なマイユ”MAILLE”の本店は、予想に反して小さい店構えでが、1歩中に入ると壁一面に並んだその種類の多さに圧倒されます。84種類のマスタードと120種のビネガーが売られています。その中からヘーゼルナッツとナツメグ”Noisette et Muscade”を買いました。マスタードがヘーゼルナッツクリームのマントを着たことで濃厚になり、フォワグラが混じったような感じです。

 最後の夜は、街1番のエスカルゴが食べたいとホテルのフロントに相談し“Hotel du Nord”に行きました。1855年からある由緒あるホテルのエスカルゴは立派で美味しく、旅の最後を飾るのにふさわしい1品でした。

 

限られた時間なので、見たい街をたくさん残してしまった今回の旅。最初は食べる前に撮影していた料理も食欲が勝り、つい忘れがちになるぐらい、食も見どころも充実した旅でした。もう一度ニースから始めて違う街を回り、きっちり記録する旅をと、主人は次の旅のコース考え始めていました。